AV-435 CD/朗読 太宰治作品集

26,400 円(税込)

デカダンを自任しつつもナルシシズムを根底に抱え、常に悩み続けた文壇の異端児・太宰治。
39歳という短い生涯を終えた奇才・太宰治の秀逸の物語18篇を、豪華俳優陣による完全朗読で綴った。
太宰が描く、優しさ、強さ、恥じらい、虚栄心、嫌悪などの人間のありのままの姿、その多様な感情が、滋味あふれる朗読によって、聴いている私たちに面白いほど見えてくる。



■第一集(朗読:伊奈かっぺい/収録時間:55:43)
・魚服記
・ロマネスク
・雀こ

父親に犯されて滝壺に身を投げて鮒と化した少女の哀れな物語「魚服記」。
「ロマネスク」の題のもとに書いた三部作中、もっとも虚構の手法に秀れた「仙術太郎」。
仲間外れにされた少年の悲しみをうたった「雀こ」―太宰の初期作品中、津軽方言の生きいきとした作品を伊奈かっぺい氏が巧みに活かし、話術に支えられる太宰作品の本質を堪能させる。



■第二集(朗読:吉行和子/収録時間:42:48)
・灯籠
・葉桜と魔笛

二作とも女主人公の告白的諸説である。こうした作風は晩年にいたるまで、もっとも太宰の本領を示すものであろう。
貧乏な妾の子が愛するために万引きをする。 「―私を牢へ入れては、いけません。私は悪くないのです。」と 叫ぶ「灯籠」の主人公。
死の病いにある妹と姉がお互いにかばいあいながら仕組む、哀しい芝居を描いた「葉桜と魔笛」。



■第三集(朗読:仲代達矢/収録時間:56:42)
・富嶽百景

「富士には、月見草がよく似合う。」とあまりにもよく知られた作品であるがこの頃の太宰は精神・肉体ともにどん底の状態にあった。昭和十、十一年とパピナール中毒による入院。
十二年内縁の妻の不貞、自殺未遂。そして十三年井伏鱒二氏の勧めで御坂峠に行く。
作品全篇に流れるリリシスムの底にある作者の苦悩に耳を傾ける時、月見草は生きてくる。



■第四集(朗読:松本典子/収録時間:53:30)
・皮膚と心

職人の妻の告白体小説である。
第二巻に収めた二作の線上に位置するものともいえるが、この作品を同年発表された「女生徒」と同様、女性の心理の深奥にふれながら、暖かい目をもって柔らかく包んでいる。
悪質な皮膚病に冒されたと思い込んで悩む女が、医者に行くと、単純な食中毒と診察される結末の明るさは、本シリーズ中でもユニークなものである。



■第五集(朗読:西田敏行/収録時間:76:26)
・走れメロス
・畜犬談

死刑を宣告されたメロスは妹の結婚式のために刑の執行を三日延して貰い、親友を人質に村に帰り再び城に戻る。
濁流を渡り山賊の包囲を突破し、沈みゆく太陽の十倍も早く走った人間信頼の情を憧憬をこめて描いた「走れメロス」。
犬嫌いの主人公になつく小犬の話「畜犬談」で、主人公は最後に呟く。
「芸術家は、もともと弱い者の味方だった筈なんだ。」 と。



■第六集(朗読:寺田農/収録時間:79:04)
・東京八景

十年間の東京生活をその時々の風景に托して作者自身を位置づけようとした作者三二歳の作。その姿は「遊民の虚無(ルビ:ニヒル)」にはじまる。心中未遂、縊死を図って失敗。
盲腸炎の手術後のパピナール中毒、二九歳で再び心中未遂事件 ―虚構を交えないで自伝的性格の濃い作品として初期の「思ひ出」とともに太宰の系譜を知る上でもっとも貴重な作品といえる。



■第七集(朗読:檀ふみ/収録時間:66:08)
・きりぎりす
・待つ
・雪の夜の話

太宰のもっとも得意とする女性を主人公とする小説三篇。
売れない画家が急に有名になり、「私の、こんにち在るは」とラジオの講演を聞いた妻のやりきれなさを描いた「きりぎりす」。
二十才の少女が毎日駅で誰をともなく「待つ」。
人間の眼の底には風景が残像として残っているから、美しい雪景色を見てきた少女が私の目をのぞいてという「雪の夜の話」。



■第八集(朗読:佐藤慶/収録時間:40:15)
・お伽草子(瘤取り)

昭和二十年戦災に遭遇し甲府に疎開中かかれた、五篇のお伽噺中の一篇。
説話をパロディ化し明るい風刺を織りこんだ太宰の特異な奔放な才能を遺憾なく示す作。
作者はその「前書き」にいう。「この父は服装もまづしく、容貌も愚なるに似てゐるが、しかし、元来ただものではないのである。物語を創作するといふまことに奇異なる術を体得してゐる男なのだ。」



■第九集(朗読:岸田今日子/収録時間:61:41)
・ヴィヨンの妻

戦後の太宰の代表作として目されている「ヴィヨンの妻」は、妻の口から飲んだくれの薄汚れた詩人を描いた作品である。
飲み屋の払いは溜め放題、挙句五千円盗んで帰宅する主人に「人非人でもいいぢやないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。」と妻はいう。
破壊型の詩人を描きながら、既成の道徳に対する反俗精神を、直截に表わそうとした作品である。



■第十集〜第十四集(朗読:奈良岡朋子)
・斜陽・一(収録時間:67:28)
・斜陽・二(収録時間:69:44)
・斜陽・三(収録時間:70:14)
・斜陽・四(収録時間:70:50)
・斜陽・五(収録時間:59:55)

戦後、没落していく旧家の悲劇を描いた太宰の長編小説。
当時、太宰と交際のあった歌人・太田静子の体験がモデルになっているとされており、「斜陽族」や「没落」などの流行語を生み出した。



■第十五集(朗読:唐十郎/収録時間:49:15)
・家庭の幸福
・桜桃

貧乏な作家は出版社から借金を重ねて家庭を顧りみない。ラジオから聞こえてくる官僚のへらへら(傍点)とした答弁に作家は自身を役人とした小説を空想してゆく。
終業後窓口に来た女を冷たく追い返すと女はその夜玉川上水に飛び込む。結論「家庭の幸福は諸悪の本(もと)」。
「桜桃」では「子供より親が大事」という、晩年の太宰を象徴するやりきれない不安を描いている。


■仕様/CD15枚組
■別冊解説書付(48P)
■発行/NHKサービスセンター